星星 月亮 太陽(Sun, Moon and Star)



1961年。鍾啓文、宋淇製作。易文監督。葛蘭、尤敏、葉楓、張揚主演。
製作費に70万香港ドル(当時の平均的な国語映画の製作費が13〜14万香港ドル)余りを投じ、
前後編合わせた上映時間が3時間20分を超えるという電懋畢生の大作映画。
1962年の第1回台湾金馬奨で作品賞、主演女優賞(尤敏)、
脚本賞(秦亦孚〔秦羽〕)、カラー映画撮影賞(黄明)を受賞。


日中戦争勃発から戦後に至る時代の中国を舞台にした、青年・徐堅白(張揚。ちゃん・やん)と彼をめぐる3人の女性たちの物語。それぞれの女性を星(朱蘭:尤敏)、月(秋明:葛蘭)、太陽(蘇亞南:葉楓)に形容しています。
「この映画を観ずして電懋を語ることなかれ」と言っても過言ではない、経典級名作です。

原作は徐速が1953年に発表したベストセラー小説で、主人公の徐堅白は原作者自身がモデルであると言われています。この小説は、2000年に香港の雑誌『亜洲週刊』が企画した「20世紀中文小説100強」の46位に選ばれました。
男性が主人公の映画と言いながら、実際には、彼を愛した3人の女性の友情を描くことに力点が置かれており、優れた女性映画に仕上がっています。
これはおそらく、当時「才女」の称をほしいままにした名脚本家の秦亦孚(秦羽)の力によるところが大きいと思われます。
また、「文人導演(文人監督)」と言われた易文の演出も抑制が効いており、いわゆる「抗日映画」にカテゴライズされる映画でありながら、日本の軍人は全く登場せず、全体に淡淡とした描写の中にも戦争の悲惨さがひしひしと伝わる作品になっています。
さらに、電懋の看板女優だった尤敏と葛蘭(グレース・チャン)を星と月に、『四千金』で次女役を好演した葉楓(写真。いえ・ふぉん)を太陽に据えたキャスティングも見事にはまり、尤敏は第1回台湾金馬奨主演女優賞を受賞、映画自体も作品賞を獲得しました。
この作品の成功に刺激されて、ライバル会社の邵氏が製作したのが、林黛(りん・たい)の遺作となった『藍與黒』です。

ところでこの映画、夜明けの風景の中で主人公の徐堅白が空を見つめながらかつて愛した3人の女性たちのことを思い出す、という場面から始まるのですが、わたくしはこれを観て「あれ?どこかで観たことのある始まり方だな」と思いました。
察しのよい方ならもうお気づきでしょうが、香港ニューシネマの傑作『風の輝く朝に(等待黎明)』(1984年。梁普智〔レオン・ポーチ〕監督。周潤發〔チョウ・ユンファ〕、萬梓良〔アレックス・マン〕、葉童〔イップ・トン〕主演)とそっくりなのです。
『星星 月亮 太陽』は日本の侵略を受けた中国が舞台、『風の輝く朝に』は日本が軍政を布いた香港が舞台という違いはありますが、共に同じ時代の状況を描いており、ひょっとしたら、『風の輝く朝に』の脚本を書いた陳冠中は、『星星 月亮 太陽』のことを念頭に置きながら執筆をしたのかも知れません。(注)

ちなみに、1988年に製作された『月亮 星星 太陽』(麥當傑〔マイケル・マック〕監督。鄭裕玲〔ドゥドゥ・チェン〕、鍾楚紅〔チェリー・チェン〕、張曼玉〔マギー・チャン〕主演)は、ナイトクラブで働く3人の女性たちの悲喜こもごもを描いた映画(鍾楚紅が劇中で大暴れします)で、これもなかなかいい作品です。
3人を見守る先輩ホステス役の胡錦(フー・ジン)の演技に、味わい深いものがありました。(とりあえづ了)


(注)粉雪まみれ氏の『チャイニーズ・シネマ・スター・オデッセイ―恋愛的中華電影明星誌』(2001年、集英社)にも同様の指摘が見えます。


主要参考文献・サイト:
『香港電影最後烈火 香港ニュー・シネマのすべて』(大和晶・中田圭、1997年、シネマハウス)
『國泰故事』(2002年、香港電影資料館)
「光影流聲楽未央 葛蘭網頁」(http://www.gracechang.com)
「尤敏記念網頁」(http://come.to/youmin)




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