生きてゐるダイヤ 2
(『戦後秘話 宝石略奪』)





三悪追放協会会長の菅原通済(1894〜1981)の原作(『昭和秘録・ダイヤモンド大蒙古の行方』)を映画化した作品。三悪追放協会協力の下、菅原自身も出演していますが、むしろ片岡千恵蔵が演じた岡村の方が、菅原の実像(昭電疑獄事件で逮捕)に近かったようです。
戦後の暗部を象徴するようなダイヤ奇談に、三悪(性病、買春、麻薬)追放を強引に絡めています。
「買春すると性病を移され、麻薬中毒になると幻覚症状に襲われて、その結果どちらも死に至るんだぞ」と、おどろおどろしい仕掛けが満載ですが、しかし、この映画が三悪の抑止力になるかというと、はなはだ疑問に思います。むしろ煽っちゃってる感じがしますし。

さて、この作品はマカオでロケーションを行っていますが、当初の予定(『キネマ旬報』掲載のあらすじ及びスピードポスターによる)では香港、シンガポールでもロケを行うはずだった模様です。しかし、結果的にはマカオでロケを行ったもののようです。
中島貞夫監督の著書『遊撃の美学 映画監督中島貞夫』によると、香港の九龍城砦でも撮影するつもりだったもののお天気に恵まれず、監督は日程のこともあったため一足先に日本へ帰国、チーフ助監督が九龍城砦での撮影を行ったとあります。
が、どこがその場面なのか、実際の映画を観てみても、ちょっとよくわかりません。撮るだけ撮って、結局ボツになった可能性もあります。
マカオロケでは南港やモンテの砦などが出てきますが、謎の男たちと文太演じる山田のおっかけっこの場面は、なかなか見ごたえがあります。

マカオの件から登場する丹波哲郎(ただし、画面をよく見ると、丹波自身はマカオには行っていない可能性大)は、『東京ギャング対香港ギャング』や『ならず者』(いずれも1964年)でもマカオに出没していますから、日本芸能界における「マカオ・キング」(なんじゃそりゃ)かも知れません。この下地があって、『Gメン75』があるのね、ふむふむ。

しかし、それにしてもわからないのが、山田の「売春撲滅」への異常な情熱。
妹が売春婦に身を落とした挙句に病気移されて死んじゃったから、というだけでは、この情熱は説明できないような気がします。それに、街頭の売春婦には金を配るくせに、赤線や青線のお姉ちゃんには知らん振りだし。

どうせたすけるなら、みんなたすけようね。

妹と静子の二役を演じた橘ますみ(1945〜)は、章子恰(チャン・ツィイー)にちょっと似た可愛らしい女優さん。
東映の「異常性愛路線」(『徳川女刑罰史』〔1968〕『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』『徳川いれずみ師 責め地獄』〔1969〕等)や「温泉芸者シリーズ」(『温泉あんま芸者』〔1968〕『温泉ポン引女中』〔1969〕)で鮮烈な印象を残し、1969年、製作者協会新人賞を受賞。また、『大奥』(1968)や『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』(1970)等、テレビドラマでも活躍しました。
1967年の映画デビューから71年の引退(OLに転身!)までわずか4年間、みじかくも美しく燃えた女優人生でした。
ちなみに、近年AVに出ている同姓同名の女優さんは、全くの別人です。

一方、売春婦を演じた賀川雪絵(現・ゆき絵。1948〜)は、初め大映に所属し、『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年)でデビュー。その頃は西尋子と名乗っていましたが(これは本名との由)、後に賀川雪絵と改めて東映に移籍、1968年の『徳川女系図』(石井輝男監督)においてふんどし姿(正確には、彼女だけは腰巻姿なのですが)で相撲をとり、「フンドシ女優」「クラパン(クラシックパンツ)女優」の称号(?)を得ました。
また、前出の『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(石井輝男監督)では、全身に金粉を塗りたくられてのたうちまわるという壮絶演技を披露しています。ある意味、「日本で最も輝いていた」女優さんだと言えるでしょう。
その後、『スパイダーマン』(1978)でアマゾネス、『太陽戦隊サンバルカン』(1981)でアマゾンキラーを演じ、特撮ヒーロー物への回帰(?)を果たしました。今も現役の女優さんです。
この映画では、日本軍に両親を殺されて売春婦に身を落とし、ために日本人への強い憎悪を抱いている女性という役どころでしたが、これまでの日港合作映画や香港・マカオロケ映画では避けられてきた微妙な問題にまで踏み込んで描写している点は、評価に値します。

映画のラスト、麻薬による幻覚症状によってハンドル操作を誤った山田は、車もろとも転落して焼け死ぬのですが、なぜかダイヤは無事。太腿の中に埋め込んでいたはずなのにねえ。誰かが取っちゃったんでしょうか、焼死体から。
しかも、いまだに日本のあちこちをさまよっているらしいですよ。

山田は死んでもダイヤは生きる。

生きてゐるダイヤ・・・・。

ホラーだったのね。(了)


付記:この映画の中に「ララ物資」というのが出てきますが、これは戦後まもなく北米在住日系人の働きかけによって設立された組織であるLARA(Licensed Agencies for Relief of Asia:公認アジア救済連盟。北米及び南米各地から寄せられた救援資金や物資を、対日救援物資として一括化する役割を担っていたそうです)の救援物資です。
とあるサイトには、「篤志家のララという女性が始めた」なんていう記述がありましたが、これはもちろん間違い。
『ドクトル・ジバゴ』じゃないんだから。


主要参考文献:『キネマ旬報』、『戦後秘話 宝石略奪』スピードポスター。
『遊撃の美学 映画監督中島貞夫』(2004年、ワイズ出版)。





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