反共映画のはずが・・・・ 4
(『金門島にかける橋』)




ところで、この映画が台湾で公開された1963年は、中影と並ぶ官製映画会社である台湾電影製片廠が香港の電懋(後に國泰。キャセイ・オーガニゼーション)から監督と俳優、日本からは技術スタッフをそれぞれ招いて製作したカラー映画『呉鳳』の公開や、香港の邵氏(ショウ・ブラザーズ)製作の『梁山伯與祝英台』(李翰祥監督)の空前の大ヒット、さらにその『梁山伯與祝英台』の李監督が邵氏を離れて台湾に渡り、新たな映画会社・国聯公司を設立する等、台湾の北京語映画(国語片)にとって特筆すべき1年となりました。
同年、中影は「健康写実路線」という新しい製作方針を定め、麗春を演じた華欣改め王莫愁が1964年に『海辺の女たち(〔虫可〕女)』、美蘭を演じた唐寶雲が1965年に『あひるを飼う家(養鴨人家)』でヒロインを演じて好評を博し、二人は一躍中影の看板女優になります。
そしてそれ以降、台湾では台湾語映画にかわり北京語映画が徐々にその主流を占めていくことになったのでした。

ついでながら二人のプロフィールをもう少し詳しく記すと、華欣(王莫愁。前頁の写真)は、1941年ベトナム生まれ(本名・王玉蘭)。3歳で広州、その後香港に移り住み、1958年に台湾へ。
1960年、師範大学夜間部芸術系で学んだ後、映画界入りし、1962年に中影に加入。デビュー作が、この『金門島にかける橋』でした。現地で開催されたヒロインを選ぶオーディションで、4000人の応募者の中から選ばれたのだそうです。
そのときは華欣という芸名を名乗っていましたが、後に自己の南画における筆名である王莫愁に改め、1964年、『海辺の女たち(〔虫可〕女)』で主演。同年、画家の呉申叔と結婚します。
翌年には、『唖女情深』で第12回アジア映画祭「最難表演的女演員」特別賞と第4回台湾金馬奨「特別演技賞」を受賞。しかし、1967年、夫の死をきっかけに引退。いったんはカムバックしますが、再び引退し、現在は台北でベトナム料理店を営んでいます。

唐寶雲(写真)は、1944年湖南省生まれ。1948年、国民党軍兵士の父と共に台湾へ渡り、苗栗に移住します。
1960年、香港の電懋のオーディションを受けますがわずかの差で不合格となり、1961年に中影の俳優養成クラスに応募、無事合格して、クラス終了後中影の所属女優となります。
1962年、デビュー作の『颱風』で、第9回アジア映画祭助演女優賞を受賞。同年『秦始皇帝』、翌年『金門島にかける橋』と、日台合作映画に立て続けに出演します。
1965年、『あひるを飼う家(養鴨人家)』に主演、人気女優の仲間入りを果たしますが、1967年に画家の戚維義と結婚、引退して、アメリカに移住します。その後、1971年にカムバックして1980年には夫と離婚、ビジネス界に転向するものの、女優業への未練断ちがたく再びカムバック。1983年の『天下第一』を最後に、今度こそ本当に引退します。しかし、1987年、精神状態が不安定になり、翌年から入院して療養生活を送りますが、1999年台北で死去しました。

台湾側キャストでは、この他にも漁師役で、「王哥柳哥」シリーズや『我らの隣人(街頭巷尾)』(1963年)でおなじみの巨漢俳優・李冠章が出演しています。


最後に、しつこいようですが、もう一つ疑問が。緊急出動命令が下って、金門島へ急ぎ戻った劉は、王のもとを訪ねた後、共産党軍の爆撃の中、いったいどうなったのでしょう・・・・。
いくらなんでも、存在感薄すぎ。(了)


付記:武井と麗春が台北のレストランに立ち寄るシーンでかかっていた音楽は、中華ポップス史上不朽の名作である『不了情』。1961年の香港映画(邵氏)『不了情』の主題歌で、顧媚(1934〔or 1935〕〜)が歌いました。この映画でも、顧媚バージョンがそのまま使われています。


主要参考文献・サイト:
『金門島にかける橋』シナリオ
『台湾映画祭 資料集』(1997年)
『もっと楽しい台湾映画 1』(1999年、賓陽舎)
『中華民国電影史 下』(1988年、行政院文化建設委員會)
『台湾電影閲覧』(1998年、玉山社)
『跨界的香港電影』(2000年、香港市政局)
『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『報知新聞』『日刊スポーツ』等
日本映画データベース(http://www.jmdb.ne.jp)
『キネマ旬報』データベース(http://www.walkerplus.com/movie/kinejun/)
台湾電影筆記(http://www4.cca.gov.tw/movie/main.htm)
台湾電影資料庫(http://cinema.nccu.edu.tw/)



金門島にかける橋(目次)に戻る


前頁へ         



玄関(TOP)



Copyright (C) 2004 "Ryosou Ai no Sazanami" by Senkichi. All rights reserved.