なぞのコリアン・アイドル
1961年7月10日付け『報知新聞』第12面に、こんな記事があります。
韓国女性のコーラス キムチ・シスターズお目見え
NETテレビ(現・テレビ朝日)15日放送の「ナイン・ショー」(土曜・後8時30分)に、韓国人の女性2人で編成するコーラス、キムチ・シスターズが韓国民謡「アリラン」を歌ってデビューする。
朴洋寿、金永基(いずれも京城=ソウル=生まれ、23歳)の2人がメンバーでともに京城の梨花女子大学声楽科卒業。ことしの2月来日したキムチ・キャッツ・ショーのメンバーだったが、そのうち2人だけ日本に残ったもの。
ジャズのスタンダードやラテンものが得意だが、韓国民謡、流行歌なども歌う。「アリラン」「ソウルの夜」の2曲が、8月ビクターから発売の予定。
ユン・ソナのご先祖様(?)です。
しかも名門女子大卒。
今のところ、二人がその後どうなったのかに関しては不明(注1)ですが、ちゃんとレコードも出しています。
先だって、ようやくそのレコード(ビクター VS-558)を聴く機会に恵まれました。
A面が『アリラン』、B面が『京城(ソール・原文ママ)の夜』というカップリング。
『アリラン』の歌詞は1番から3番までで、2番がハングル語の歌詞。日本語歌詞への訳詞は、なんとキムチ・シスターズ自身が手がけています(ほんとかどうかはわからないけど)。
編曲は、A面・B面共に吉屋潤。朝鮮半島出身の著名な作曲家です。
おそらく、彼女たちの日本における売出しをプロデュースしたのも、この吉屋だったに違いありません。
『京城(ソール)の夜』の歌詞も『アリラン』と同じく1番から3番までで、2番がハングル語というのも全く同じパターン。
ソウル娘とのはかない恋を歌った曲です(日本語歌詞による)。
作曲者のクレジットはありませんが、実はこれ、1947年に玄仁(ヒョンイン)が歌って大ヒットした『新羅の月夜』のカバーで、井田誠一が日本語作詞を担当しています(ハングル語の歌詞は原曲そのままと思われます)。
曲調はあえて言えば朝鮮風というよりは中国風で、伴奏にはスチールギターなんかも入る、かなりエキゾチックな仕上がりです。
作詞の井田誠一は和田弘とマヒナスターズの『泣かないで』の作詞もしていますから、そんなこんなでのスチールギター入りなのでしょうか(かんけーないか)。
それにしても、キムチ・シスターズといい、キムチ・キャッツ・ショーといい、なんとかなりませんかね、このネーミングのセンス。
もしもユン・ソナがその頃日本デビューしていたら、芸名は「ミス・キムチ」にされていた可能性大。
また、血もつながっていないのに「姉妹」だなんて、叶姉妹のご先祖様も兼ねている模様です。
日韓条約締結(1965年)以前にも、それぞれ国家の思惑をよそに、韓国のアーチストたちは日本で活動していた、というお話でした。
(注1)1961年6月9日付『日刊スポーツ』第9面に掲載の「日本調ムードは『ソウルの夜』 韓国女性二重奏チームが吹き込み」によると、2人はアメリカからもオファーがあり翌1962年に渡米予定、とありました。しかし、実際に渡米したか否かは不明です。
(2003年10月16日記。2005年1月9日大幅に加筆改訂。同年5月8日さらに加筆訂正)
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