にっぽんの台湾男星2



1年間に7本の映画に出演するという契約を東映と結んで来日した林沖でしたが、肝心の出番がなかなか回って来ず、映画に出演できない日々が続きました。

しかし、チャンスは意外なところからやってきました。

東映のライバル会社である東宝が9月に東京宝塚劇場で上演する東宝ミュージカル『香港』に、出演することが決まったのです。

この作品は、菊田一夫の作・演出によるもので、香港から招いた女優陣(李mei〔サンズイに眉〕、梁素梅)と、越路吹雪、浜木綿子、宮城まり子、市川団子(現・猿之助)、三木のり平等の日本人俳優陣が競演するということでも、話題になった舞台でした。

『週刊平凡』1961年8月30日号掲載の「台湾からやってきた二枚目スター 東宝ミュージカル"香港"に出演が決まった 林沖君の喜び」によると、林沖の起用を決めたのは菊田一夫で、「出演するタレントに困っていた菊田一夫氏が、林沖を一目みてすっかりほれこみ、『ぜひ出演してほしい』と、その場で契約がきまった」のだそうです。

ここで林沖が演じたのは、日中ハーフの商社マン・安西英樹(市川団子)のいとこ・杜青龍。

『香港』は、上演時間が約4時間半(!)という超大作でしたが、当時の劇評を見ると、「豪華配役が見もの」(1961年9月10日付『日本経済新聞(夕刊)』)「もう一くふうを」(同年9月8日付『夕刊 読売新聞』)「大甘なメロドラマ」(同年9月9日付『毎日新聞(夕刊)』)といった具合で、「キャスティングは豪華だが、中身はどうも・・・・」という出来だったようです。

林沖に関しては、『夕刊 読売新聞』の劇評に、

台湾の俳優林沖が浜の兄である志士をやる。熱演にもかかわらず一人ずもうの観(ママ)が強い。

と、やや辛口の評が見られました。

ともあれ、このミュージカル出演によって、ようやくチャンスを掴んだ林沖は、フジテレビの人気ドラマ『検事』(宇津井健主演)に準レギュラーで出演することが決まり、また、TBSの単発ドラマ『極東特派員』(10月17日放送)に主演する等、徐々にその活動の幅を広げていったのでした。

付記:林沖来日とその後のいきさつに関して、「《大盜歌王》─林沖」(張夢瑞、『光華』2000年6月号所収、光華雑誌社)には、「1962年4月、日本大学芸術学部演劇学科に留学のため来日したが、その後家運が傾いたため、林沖は家庭教師とガイドのアルバイトをしながら勉学に励んだ。そして、東宝が合作映画製作のさいの通訳を募集した時これに応募、これが結果的に映画出演のきっかけとなった」といったことが書かれていますが、これまでに引用してきた当時の報道を見る限り、この記述は誤りであると言わざるを得ません。
また、日本大学芸術学部の卒業生名簿に林沖ないしはその本名の記載はありませんでした。
もしかしたら、来日後の一時期、大学に籍を置いていたことがあるのかもしれませんが、現段階においてはそれを確かめる術はなく、したがって、ここではあくまでも当時の資料に基づいて、記述を行っていきたいと考えています。



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