早稲田大学演劇博物館所蔵の邵氏シナリオについて 2
2、井上梅次作品
先述したとおり、井上梅次作品のシナリオは計11冊。うち、シナリオタイトルと完成後の中国語タイトルが一致する作品が4冊ありましたが、残りの7冊はタイトルが変更していました。
そこで、シナリオ本文を読み、その内容から完成作品のタイトルを類推しましたが、『夜の薔薇』と『国際犯罪部隊 紅線七〇〇〇号』だけは、完成作品の中国語タイトルがわかりませんでした。
参考までに内容をご紹介すると、『夜の薔薇』は、シンガポールから金塊密輸の捜査にやって来た黄義強(刑事)が、ギャングのボス(片目)の愛人でクラブ歌手の丁〔王攵〕瑰と恋に落ち、警察を裏切って〔王攵〕瑰との生活を選びますが、奔放な〔王攵〕瑰に嫉妬して彼女を殺害、自分も片目の手下に殺される、というもので、ちょっぴり『野〔王攵〕瑰之恋』を思わせるストーリーです。
片目が裏切り者の手下・唐を殺すシーンでは、香港公開用とシンガポール公開用、二つのバージョンの記載があり、シンガポール公開用では、井上監督の1967年の作品『諜網嬌娃』のフィルムを使うように指定がしてありました。
『国際犯罪部隊 紅線七〇〇〇号』は、当時流行の007ばりのスパイ映画。シナリオ巻頭に、
007のスリル、スピード、エロチズムに新兵器のミニチュア効果を加えて、全世界にブームを起している漫画(劇画)の映画化のつもりで、荒唐無稽のアクション映画を作りたい。
という、「製作意図」が記されています。
ストーリーは、連合国諜報部員011の羅傑が、殺し屋になりすまして「千手魔王」と呼ばれる犯罪王・葛大富のボディ・ガードになり、葛の犯罪計画を阻止すべく奮闘する、というもの。
タイトルにある「紅線七〇〇〇号」は、葛率いる犯罪集団の新兵器である空飛ぶ円盤の名前で、葛は、この円盤にやはり新兵器の動力破壊砲を登載して、世界中の財宝を略奪せんとしています。
アクションあり、お色気あり、お笑いありの痛快な作品です。
ただ、シナリオ記載の年月日と、邵氏での井上作品のタイトルと内容から見る限りでは、この作品は、映画化されなかった可能性もあります。
シナリオは完成したものの、その後香港行きを断念したため(松竹の上層部から、香港へ行かないよう釘を差されたので、日本での映画製作に専念するようになった、との由)、結局お蔵入りになったのかも知れません。
この他、『恋と涙と太陽と』(『青春戀』)は、2冊のシナリオがありましたが、改訂版では主人公の祖母と、主人公の会社の副総裁の息子(主人公の義弟)が登場人物に加わっている点が、当初のシナリオと異なっており、主人公を慕うヒロインが金髪娘に化ける趣向も、改訂版のときから登場しています。
『続・釣金亀(日本の巻) 恋愛作戦 あの手この手』は、『釣金龜』(1969)の続編として企画されたもので、シナリオにあるヒロイン3人の名前も『釣金龜』と同様ですが、後にこれを改訂して『我愛金龜婿』とした模様です。
3、島耕二(史馬山)作品
島耕二作品のシナリオは、計4冊。うち、『裸屍痕』と『海外情歌』は完成作品とタイトルが同一のため、すぐにそれとわかったのですが、残る2本、『柳艶花嬌』と『情花〔几/木〕〔几/木〕』の完成後のタイトルが、当初の調査ではどうしてもわかりませんでした。
しかし、その後発売されたリマスターDVDによって『柳艶花嬌』が『椰林春戀』(1969)であることが判明しました。
邵氏の作品リストによれば、邵氏における島耕二の作品は合計4本。先述の『裸屍痕』『海外情歌』『椰林春戀』の他、『胡姫花』(1970)がありますが、『胡姫花』(1970)は「シンガポール、マレーシアでロケを行った恋愛ミュージカル映画」(『跨界的香港電影』による)だそうで、香港のみが舞台の『情花〔几/木〕〔几/木〕』とは異なります。
念のため、ストーリーを記すと、『情花〔几/木〕〔几/木〕』は、大新旅行社ガイドの秦邦文とアメリカの石油会社総代理の令嬢・葉安〔女尼〕の恋物語に、歌と踊りを絡めたものですが、山もオチもないお話です。
また、『柳艶花嬌』は外国帰りの青年・平建人が、ガールフレンド・蘇詠蘭の働く旅行社に就職しますが、客とのトラブルがもとでクビになるものの、シンガポールから学生を引率してやって来ていた董先生のはからいで、学生たちを台湾へ案内することになる、というもので、彰化大仏や横貫道路、阿里山、原住民の部落が登場しますが、完成作品の『椰林春戀』ではこれがマレーシア旅行に変更されたようです。
ところで、『海外情歌』に関して、『跨界的香港電影』や『邵氏電影初探』には、「もともとはシンガポールとマレーシアでロケをした『南國情歌』だったが、主人公の弁護士を演じた陳厚が急逝したため撮影中止となり、その後、桂治洪がタイトルを『海外情歌』と改め、舞台を日本に移し、主人公の弁護士を医師に変えて金峰が演じた」といった内容の記載があるのですが、残されたシナリオから言えるのは、一番最初のタイトルは完成作品と同じ『海外情歌』だったということです。
つまり、初め『海外情歌』なるタイトルでシナリオを書いたところ、主な舞台がシンガポール行きの船上だったので『南國情歌』に改められ、さらに撮影再開後、舞台が日本に変更されたため『海外情歌』という元通りのタイトルに戻った、というのが真相のようです。
ちなみに、『裸屍痕』は1968年の島監督作品『怪談おとし穴』(大映。船橋和郎脚本)のリメイク。
ただし、『怪談おとし穴』では主人公(成田三樹夫)が邪魔になった恋人(渚まゆみ)の死体をパイプシャフトに落とすのに対して、『裸屍痕』では壁に塗り込めるという「化け猫もの」のような展開になっています。
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